こんにちは、きんどるどうでしょうです。わたしが気になってる新刊を代わりに紹介してくださいというゲスト書評企画。『青野くんに触りたいから死にたい』が話題の漫画家・椎名うみ作品集『崖際のワルツ』のレビューをいただきました。
本作じゃ"萩尾望都氏が感嘆した アフタヌーン新人賞「四季賞」受賞作"などを収録した作品集。調べると受賞作は『ボインちゃん』みたいですね。アフタヌーン四季賞2014 秋のコンテスト
受賞時の萩尾先生のコメントを調べると感嘆というほど力強いコメントではない気もしますが”読んだ後、とても印象に残る作品でした。さりげない会話が現代的で面白かったです” ”女の子の悩みがとてもよく描けていると思います”とのことです。 //きんどうここまで
性徴期と思春期、揺れる心の短編集
お久しぶりです。A.薬缶αです。今回紹介するのは『崖際のワルツ 椎名うみ作品集』です。
タイトルからして、狙い澄まされているイメージを感じますが、内容はそれ以上に一部の読者を狙い撃ちにしています。この書評を通して、どんな読者に『崖際のワルツ』が突き刺さるかを説明してゆきたいと思います。よろしくお願いいたします。
この椎名うみ作品集には、表題作の『崖際のワルツ』の他、『ボインちゃん』、『セーラー服を燃やして』の二編が収録されています。それぞれ30ページ程度の短いお話なのですが、タイトルから予想される通り、性徴期を迎えた小学生の困惑、不登校になってしまった中学生の葛藤などが克明に描かれています。
彼女たちの葛藤は子どもから大人への過渡期にある誰しもが迎えうる、ある種の『あるある』です。それらの経験が過去になってしまった今の自分が、彼女たちの姿を見てみると、『何をそんなに思い悩んでいるのだろう?』と、『そんなに必死になることなんてないのにな』と、横槍を入れてしまいそうになります。
しかし肝心の彼女たちにとってはそうではない。ここでこの作品集の味となってくるのが、彼女たちの鬼気迫る表情です。
うまく言葉として表現できない小中学生の感情を、絶妙な表情を通して雄弁に物語ってくれています。口では説明できない。だけど彼女たちにとって、それらの問題は何よりも掛け替えのないものだということがわかります。
大人が知ったような口を聞いたところで、決して彼女たちの心に届かないのは、きっと生きている世界が違うからでしょう。
『崖際のワルツ』思春期に手が届かなくなってしまった大人にこそ読んで欲しい
それらを踏まえた上で表題作の『崖際のワルツ』です。演劇部に入部した律は強烈な個性を持った西園寺華に目をつけます。
華はその麗しい見た目とは裏腹に、演劇経験もなく、棒読みにもかかわらず声ばかりが大きく、見る者を悪い意味で引きつける生徒でした。それもそのはずで華は『その場の空気を読む力』が極度に欠けており、相手に合わせたり、空間に合わせた適度な力加減がわからないのです。
そのせいで華は、過去に友だちができた経験もなく、孤立してばかりいました。
そしてそんな華たち新入生に突きつけられた課題が『2人1組を作り、1週間後に20分の寸劇を行う』というもの。華の悪目立ちする力に目をつけた律は彼女を利用して白雪姫を成功させようと企みます。産まれてこの方、友人のいなかった華は律の誘いに乗り、初めてできた友だちに心を躍らせるのでした。
そして劇当日。律の明朗な演技と、華の力任せの演技、一見するとちぐはぐな組合わせは、ある種独特の魅力を持って見る者の心を奪います。しかしそこで事件が起こります。
ただ律の言う通りに演技をしていたはずの華が暴走し始めるのです。華は終始、場面にそぐわない笑みを浮かべながら、叫ぶような演技をし始めます。その演技が物語においてどう転ぶのかはオチにかかわる部分なので、ここでは伏せさせて貰います。
ですが『どんな物事においても、全力を出し切るしか能がない』そんな少女の不器用さや痛ましさ、そしてそれ以上に滲み出る魅力などが少しでも伝わってくれれば幸いです。
『崖際のワルツ 椎名うみ作品集』の書評は以上になります。
私はこの短編集を思春期に手が届かなくなってしまった大人にこそ読んで欲しいと思っています。自分にも合ったはずの恥ずかしさや痛ましさを、そしてそれを乗り越えてきたであろう経験を、この短編集を通して追体験していただければと思います。
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選考委員・萩尾望都氏が感嘆した、アフタヌーン新人賞「四季賞」受賞作。『ボインちゃん』教師と生徒。その埋めがたい溝をめぐる絶望と激高。『セーラー服を燃やして』華と律――ふたつの異なる才能が、舞台上で激突する。高校演劇青春活劇!!『崖際のワルツ』
椎名うみ作品『青野くんに触りたいから死にたい』のレビューも掲載しています
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— きんどう (@zoknd) July 3, 2017
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