こんにちは、神野オキナです。今回は明日1月27日Kindle配信のガガガ文庫新作「 EXMOD:思春期ノ能力者」の宣伝もかねて、30代以上の人たちにとっては懐かしい「一般人超能力者もの」とでも呼ぶべきジャンルについてコラムを書きます。
(私的な見解)一般人超能力者ものジャンルとは
一般人超能力者ものジャンルとは”目指してその能力を得るのではなく、ふとした偶然の出来事から超常的な能力を得てしまった一般人の主人公(あるいは主人公達)が、これまでと同じ日常生活を送りつつ、その能力を駆使して降りかかる災難を払ったり、あるいは自分の日常を破壊しかねない大事件を解決したり……場合によっては日常から追われて戦いの中に身を投じたり、というのが物語の骨子“になっています。
いずれも物語の底辺に流れる主旋律は「哀しみ」であり「切なさ」だったりします。それは「成長」とうものの暗喩(メタファー)なのですが、それだけに「学生生活」というものと結びつくと傑作が多いようです。
私の「EXMOD:思春期ノ能力者」もまた、そういう切なさの主旋律を読者の皆さんにお聴かせすることをメインに作られた小説です。
「EXMOD:思春期ノ能力者」のストーリーは基本、「普通の高校生がとある事情で限定的な超能力を得てしまったら?」というもので、更にその中に「思春期のコンプレックス」「淡い恋心」「子供たちの秘密」などのキーワードを入れた上、その能力を使ったバトルや世の中の動きも入れるという、少々大人びた作品になっております。
で、この作品の原型になった映像作品やマンガ、小説を取り上げようというのが今回のコラムの目的です。
ここでCMです。神野オキナの新刊は明日1月27日Kindle配信!
EXMOD 思春期ノ能力者
3人の少年少女は、ある日超能力に目覚めた。 高校生の真之斗は、お隣の双子の姉妹・世衣、亜世砂と姉弟同然に育ってきた。ある日の朝、通学中に巻き込まれた「白いコートの少年」による凄惨な大事故で、3人の日常は一変してしまう(……)現場では宙に浮かぶ「白いコートの少年」が目撃されていた……。 突然の超能力に目覚めた少年少女たちの戸惑いと葛藤、そして戦いを描く青春SF長編!
「ふとしたことから」の魅力『一般人超能力者もの』
さて「一般人超能力者もの」最近はあまり見かけなくなったこの「普通の高校生が超能力(魔法や超技術、格闘能力ではなく、あくまでも限界つきの、念じることで発動するESPや超人的身体能力に分類されるようなもの)を得てしまう」ジャンル物ですが、ある意味70年代〜80年代まではマンガや青少年向けの小説(ラノベ以前)においては王道とも言うべき代物でした。
あくまで私見ですが、とお断りするとしまして、個人的にマンガにおけるこのジャンルの代表作といえば、実は自分が数千年前に飛来した宇宙人の遺伝子を持っている、ということで「三つのしもべ」を含めたその超技術と同時に超能力をも受け継いで、これまでの日常を棄てて戦いに身を投じる横山光輝先生の「バビル二世」。
画家の娘の女の子が「ふとしたことから」何かが飛んでくる状況が起こることで、テレポーテーションを含めた能力に目覚め、かといって大冒険が起こるわけではなく、その能力を隠しつつ、地に足の付いた日常的な冒険を繰り広げる藤子不二雄(F)先生の「エスパー魔美」があります。
さらに時代を下ると今や懐かしい「イヤボーン(追い詰められることで爆発的な超能力を発動させてしまう状況、命名は相原コージ先生、竹熊健太郎先生コンビの名作『サルでもかけるマンガ教室』)」という言葉を生み出すきっかけになったとされる工藤かずや先生原作、池上遼一先生作画の「舞」が印象的です。
昨今はESPや超人的身体能力というより「秘められた才能」という風に描かれることが多いようで、ガガ文庫にはその先駆者として東出祐一郎先生の「ケモノガリ」があります。
ケモノガリ
平凡な顔、平凡な成績、何もかもが平凡な少年。だが誰にでも一つくらいは取り得がある。彼の場合はそれが「殺人」だった―。東欧小国で修学旅行中の生徒たちが拉致された。犯行グループは財閥の好事家たちによる「狩猟クラブ」。GPSを埋め込まれ、「人間狩り」のゲームが始まる(……)人気ゲームメーカーpropellerの東出祐一郎、激昂のオリジナル小説デビュー作。
そして何よりも私らの世代にとっては、少し上の世代にとっては常識というか最低限読むべき本だった筒井康隆先生の名作「時をかける少女」。
時をかける少女 (角川文庫) 新装版
放課後の理科実験室で、ガラスの割れる音がひびいた。床の上で、試験管から流れ出た液体が白い湯気のようなものをたてていた。甘くなつかしいかおり…、そのにおいをかいだ芳山和子はゆっくりと床に倒れふしてしまった―。(……)わたしだけ時間が逆もどりしているのかしら?和子は同級生の深町一夫と浅倉吾朗に相談するのだが…。
「ふとしたことから」ラベンダーの香りを嗅ぐと時間を遡ることが出来る様になった少女の、忘れられない、しかし本当に現実だったは分からない、という謎めいた「淡い青春の幻影」をテーマにしたこの作品は、発表から数十年を経過しても、未だに実写、アニメでリメイクされ続ける文字通りに不朽の名作となりました。
今なお再版され、様々な年齢層に向けて表紙のバリエーションが存在するという作品は日本国内において(いや世界的に見ても)そうそうはありません。
筒井先生はその真逆で、最初からテレパス能力を持っている少女が見た幸福そうな一家の暗黒面を執着的に描ききる「家族八景」や、そこから一転して、海外小説家A・E・ヴァン・ヴォークトのこれまた名作「スラン」の現代版のような展開を見せる「七瀬再び」、そして更にひっくり返してメタフィクションにしてしまう「オイディプスの恋人」というのもありますが……これは余談。
海外ではふとした……というには多少無理がありますが、思春期のコンプレックスと「何か」が反応して(本編中に説明はない)超能力を得るスティーブン・キングの「キャリー」がこの手の物の古典でしょうか。二回映画化されていて、一回目のシシー・スペセイク主演版はブライアン・デ・パルマ監督の出世作と言われています。
映像作品で繋ぐと、米軍の廃棄物があるという洞窟を探検してたら、とあるものに偶然触れてしまったことで超能力を得てしまう三人の少年とその顛末をがヴァイラルビデオの手法を使って描いた「クロニクル」が新しいでしょうか。
そこで言えば大ヒットドラマ「HEROES/ヒーローズ」もこの枠に入るのかも知れません。
ああ、そこまで広げちゃうと大友 克洋先生の名作「アキラ」もこの枠に入る作品と言うことになりますね。こちらは実写映像化の話が浮かんでは消えておりますが。
さて本題を小説に戻しましょう。
もう一つ、これに「コメディ」と「パロディ」いう要素を叩き込んだのが平井和正先生の「超革中」こと「超革命的中学生集団」です。
超革命的中学生集団
元祖ライトノベル?! 謎の宇宙人により、超人能力を与えられた6人の中学生。人類の存亡は、彼ら“超革中”の面々に委ねられた!? 横田順弥、鏡明ら実在のSF関係者が実名で登場することでも話題を呼んだ、平井和正の抱腹絶倒ハチャハチャSF!!
ページを開けるといきなり肉筆と思しい誤字脱字だらけの「けっとう状」があって、その次のページを開くと、
「前ページのような果たし状を突きつけられたときは、跳びあがるほど驚いた」
と一人称で始まるあたり、40年前の作品とは思えない(笑)
それまで「虎」と「狼」の時代と後によばれる程、シリアスでハードな小説を書いていた平井和正先生が「おかしくなった」と言われるほどに、振り切った「ハチャハチャ」ギャグを炸裂させたのがこの小説。
で、この冒頭からいじめられっ子のヨコジュンと呼ばれる少年と彼をいじめている鏡明という少年を含めた六名が神社で決闘をしていると宇宙人がやって来て、彼らに人類がこれ以上のステージに進化出来るかどうか、を確かめるために超人的な能力を与え……という滑り出し。
しかも主人公のヨコジュン、鏡明を始め、出てくるキャラクターの名前がほぼ当時のSF作家とその関係者から取られているというのもまた、今の作品のやってることを先取りしすぎと言いますか。使われている単位(足のサイズを十三文半と呼んだり)する以外はほぼ、今でも通じる軽妙洒脱でスピーディなリズムの文章で、あっという間に読めます。
さらにKindle版には主人公のモデルになった、ヨコジュンこと横田順彌先生、鏡明先生による解説など、当時の雰囲気(ノリ)を知る上で役に立つ資料が入っております。
…………とまあ、こうやって見回してみると、古い作品の中にこそ、実は新しい物の萌芽が詰まっているのかも知れません。
実際「EXMOD:思春期ノ能力者」はこれらの作品の影響の上に作られたものです…………いえ、さすがに「超革中」のようなギャグ要素はありませんが、それでも「思いがけない能力を与えられた戸惑い」やそれに対する決意や覚悟などは……あくまでも今風にアレンジして、ではあるのですけれども……描いております。
アメコミのスパイダーマンの有名なセリフ「偉大なる力には偉大なる義務が伴う」という事実を彼ら、彼女らがどう対処し、決断し、行動するか。
そしてそれが幼なじみ同士という彼らの関係をどう変えていくのか、「善意」とはなにか、とかそういう、今は大人はもちろん、リアルでは若い人たちも口にするのが気恥ずかしいことを、真っ正面に受け止めて動くキャラクターたちを描きました。
この小説は彼らとそれを取り巻く他の少年少女たちが過ごす思春期のスケッチでもあり、同時に理不尽な暴力や、予測不可能な状況に対処する「世界」の物語でもあります。
懐かしいと思う人たちもいらっしゃるでしょうし、初めて見る、という若いかたも楽しんで頂けるようにしています。
それだけではなく、何故作品冒頭にTOPSの「プラタナス」という曲を掲げたのか、各章の英語タイトルが何のもじりなのか、そこも含めて何度でも読み返せるようにしてあります。
何度か読み返せば恐らく、最初に読んだ時とは違う人間関係や、「裏」や「余白」の部分が読み取れると思います。そういう「仕掛け」をした小説です。
では、大分長くなりました。上に挙げた作品同様、いえそれ以上に「EXMOD:思春期ノ能力者」まずはお楽しみ頂ければ幸いです。それでは、また!
新刊は明日1月27日Kindle配信です
EXMOD 思春期ノ能力者
3人の少年少女は、ある日超能力に目覚めた。 高校生の真之斗は、お隣の双子の姉妹・世衣、亜世砂と姉弟同然に育ってきた。ある日の朝、通学中に巻き込まれた「白いコートの少年」による凄惨な大事故で、3人の日常は一変してしまう(……)現場では宙に浮かぶ「白いコートの少年」が目撃されていた……。 突然の超能力に目覚めた少年少女たちの戸惑いと葛藤、そして戦いを描く青春SF長編!
この記事を書いた人:神野オキナ Twitter
1970年沖縄生まれ、在住 1995年別名義で作家活動を開始 1999年神野オキナに改名、「かがみのうた」でファミ通えんため大賞小説部門奨励賞を受賞
「かがみのうた」は後に「闇色の戦天使」に改題されてファミ通文庫で刊行(現在絶版、元タイトルに戻しての電子書籍化予定) ソノラマ文庫「南国戦隊シュレイオー」で初のコメディに挑戦(現在マイナビ文庫より電子書籍化)。
2003年MF文庫で「あそびにいくヨ!」第一巻刊行。以後、漫画化、アニメ化されて本編全20巻、外伝4巻の代表作となる。現在も精力的に活動中。
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