こんにちは、きんどるどうでしょうです。きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してくださいというゲスト書評企画。今回はカドカワグループ会長であり、いまなお日本を牽引する角川歴彦最新作「躍進するコンテンツ、淘汰されるメディア メディア大再編」のレビューをいただきました。
レビュー頂くまで”コンテンツ”が躍進する話だと思っていたのですが、どうもメディア再編。特にTVからオンデマンド配信などユーザーのメディア体験の変化が本書のキーのようですね。わたしもAmazon帝国の一兵卒としてこの辺をずっと考えてるのですがAmazonプライムビデオの浸透速度早すぎるんですよね。
2015年9月サービススタートしてまだ2年足らずなんですが、映像コンテンツとの触れ方が大きく変化したって方も多そう。これが5年、10年経った時どうなっていくのか。しかし、角川歴彦さん(73)はクラウドからけものフレンズ、マストドンまでなんて吸収力と分析なんでしょう。
淘汰されるメディア。そしてメディア大再編を語るメディア本
どうも、ハンハンス@hanhans7thと申します。今回レビューをいたしますのは、角川歴彦『躍進するコンテンツ、淘汰されるメディアメディア大再編』です。
なのですが、その前に一つネタバレをさせていただきます。この本、躍進するコンテンツ、と題として書かれているのですが、その辺の話は無いわけではないんですが、通常の意味におけるコンテンツとは位相が違っています。いわゆる日本コンテンツ万歳みたいなのではありません。もっと冷静な、とみに冷静なものです。
では何をこの本は語りたいか、というと、題の後ろ二つです。つまり淘汰されるメディア。そしてメディア大再編です。この話にプラスして90年代から10年代のメディア史を著者の目線から語る、という形でこの本は構成されています。つまり、この本の主題はコンテンツではなく、メディアにあるということです。
アメリカと日本 二つの国のメディアの存亡
コンテンツではなくメディアにある。そうと言っていいとする理由は、主に二つの国のメディアの存亡について書かれているからです。二つの国。それは当然のようにアメリカと日本です。
まずアメリカ。これは最近のメディアの動向として、ネットフリックスの隆盛が主の線となり、スティーブ・ジョブズのifの目論見が副の線となってメディアの大きな変化の、存亡の話が織り込まれていきます。
それによって編まれた布には、新たな独占者、著中の言葉を借りた言葉を更に借りれば「モノポリー者」の誕生という名がつくでしょうか。そういう者の勃興を理解させる話になっています。つまるところ、その勃興者であるネットフリックスやその追従者であるアマゾンなどが、今の既存メディアを超克する。そういうイノベーションの織布の存在を、著者は予言ではなく確信として語っています。
ここに日本がどう絡んでくるか、というのがこの本の大なる主題です。ネットフリックスは2015年に日本上陸したわけですが、そのここよりいずれ未曾有の大勢力としてなるであろう黒船によって、日本はどうなってしまうのか。日本の既存メディアはどうなってしまうのか。
そういうところを語っていく。のですが、この本の特色として、そこに至るまでが中々に迂遠な点があげられます。
ネットフリックスの上陸の話から、一転して00年代付近のインターネット界隈の話、あるいはそこから更に戻ってハイビジョンテレビの騒動の顛末、あるいは日本でもあったイノベーション、光ファイバー網や地上デジタル、の話などへとなだれ込みます。
この辺りは当事者として絡んでいたりする著者の立ち位置と、それ故に知れている情報などを元に構成されていまして、大変興味深く読めるのですが、それがこの著書の半ばまであるという状況にあっては、元に戻ってください!と言いたくなるのもやんぬるかな。と思っていただきたい。
しかし、そこは本当に面白いです。民営化するまでの、電電公社からNTTへの流れの話やテレビというメディアの勃興とそれにまつわる話、つまるところ日本のメディアと商体質というのを安易に下げもせず、だからと言って上げもしない。
そこがこうなっていった、というのを出版人という部分が多分にあるがゆえの、冷静に状況を見る形がそこにはあります。商売人であるソフトバンクの孫正義氏への著者視点での正当な評価とかも面白いです。
振り返ってみれば、モバイル事業に手を出して、そして確かにモバイルは来たし、テレビにも手を出して、またテレビの今後も変わってくるだろうというのが見える。そういう時流を先んじて見ていた、という事実の列挙は氏への評価というのが門外漢では簡単にはできないものなんだな、と理解させるには十分です。若干持ち上げすぎな気もしますが。
何故長いと思われようともNTTとテレビの話をしようとするか。これは上記のイノベーションの織布がNTT、つまり通信と、テレビ、つまり放送メディアの二つに絡んでいるからです。インターネット、通信による、動画、テレビ番組の配信。この二つの糸が、日米ともに重要だからです。
そして、日本の話をするから、しっかり語られているのです。単なる蛇足じゃないのです。でも、ちょっと長いです。興味深いんですが、迂遠です。
さておき。その話をされて読者側が思わされるのは、テレビというものの限界点についてです。
ネットフリックスのイノベーションという名の織布。これの内実はつまるところ、「いつでもどこでも誰とでも」、コンテンツを楽しめることです。テレビだけではなく、パソコンやスマホでも、垣根なくコンテンツを楽しめる時代が、もう来ているといっていい状態です。
では、翻って日本のテレビメディアを見れば? ネット対応に対して重い腰を上げ始めたような状態。しかし、織布の浸透は既に始まっています。中ほどまで進んでいるとすらいえます。実際待ったなしなのです。
それに対して、著者がどう思っているか。日本の既存メディアがどうなってしまうと考えているのか。というのはコンテンツで商売をしてきた出版人だからか、とみに冷静に語られます。その解答については、本書を読んで確認していただきたいと思います。黒船効用論、がキーワードです。
AmazonKindle電子書籍で『躍進するコンテンツ、淘汰されるメディア メディア大再編』
躍進するコンテンツ、淘汰されるメディア メディア大再編
21世紀、私たちはどのような分岐点に立っているのか。コンテンツのデジタル化、ITイノベーション、「黒船」来襲――。メディアの変遷の世界的動向とニッポンの事情の詳細を果敢に読み解き、打ち立てた、全産業「再定義」立国論! 闘う出版人の渾身作!
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— きんどう (@zoknd) July 21, 2017