こんにちは、きんどるどうでしょうです。きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してくださいというゲスト書評企画。マンガ家・木村いこが不安障害から回復を目指すコミックエッセイ『夜さんぽ』のレビューをいただきました。
木村いこさんは『たまごかけごはん』『いこまん』の2冊を本作『夜さんぽ』とおなじ徳間書店RYUCOMICから発売してますね。なぜか今20%ポイント還元が付与されています……。発売記念かな? わたしは作者さんと表紙、タイトルでホンワカしたものを想像していたのですが、内容紹介を読むと『え、不安障害……?』と驚きました。
今回のレビュアーは医師の方で『厚生労働省 みんなのメンタルヘルス』を基本に書かれております。日本人の10人に1人がなるかもしれない不安障害、いま苦しんでいる方も、いつかかかるかもしれないわたしも……本作が解決策というわけではないですが、届くべきひとに届いてほしいですね。
マンガ家・木村いこが不安障害から回復を目指すコミックエッセイ
こんにちは!前回『読書で離婚を考えた。』の書評を書かせていただきましたブログ勤務医開業つれづれ日記・3の医師、中間管理職@med2008です。またお会いできましたね。
今回紹介させていだたきますのは、木村いこ先生の『夜さんぽ』です。この本は「不安障害」について描かれた漫画作品です。なんとなくいい本だと感じる方が多いと思いますが、結構深い本です。実は多くの人が経験する「不安障害」。日常でどのように困難を感じながら過ごしているのか、やわらかくあたたかい視点で描かれています。
不安と一緒に『夜さんぽ』
木村いこ先生は32歳女性。イラストレーターで、漫画では「たまごかけごはん」や「いこまん」を出版されています。児童書では「ねこ天使とおかしの国に行こう!」など多数の挿絵を描かれていて、さらには小学校の国語の教科書の挿絵も描かれています。
しかし木村いこ先生は「不安障害」にかかってしまいます。「不安障害」治療の一環として夜に散歩するというのが今回の本です。
「不安障害」とは
「不安障害」はその名前の通りに不安に感じてしまうのがおもな症状です。不安になるはっきりした理由がなかったり、理由があっても必要以上に強い不安に繰り返し襲われたりする病気です。発症しやすい年齢は10代後半と30代です。
日本ではおよそ10人に1人が一生のうちになると言われています。アメリカでは不安障害は10人中3人とかなり多くの人が経験すると言われています。実は本当に多くの人が経験する病気なのです。
「不安障害」について知識があるとこの本の良さが本当にわかるんじゃないかと思います。ただ本の中にははっきりと病気について書かれていませんし、原因も「自律神経をこわしてから」としか描かれていません。今回の書評はあくまで作品の内容から読み取ったことで、私の想像が入っています。実際に木村いこ先生がそうだ、ということではありませんのでご理解ください。
木村いこ先生の症状は動悸やめまい、予期不安、不眠、神経過敏などのようです。同じように他の「不安障害」や「パニック障害」患者さんも突然の激しい動悸、胸苦しさ、息苦しさ、めまいなどの強い不安に襲われます。患者さんは心臓発作ではないか、死んでしまうのではないかなどと感じるような強い症状を訴えて病院を受診します。でも病院に着いたころには症状がおさまっていて、検査ではとくに異常はみられません。そのまま帰宅しますが、また発作を繰り返すことが多いのです。
『夜さんぽ』の裏側
「夜さんぽ」は夜に気ままに歩きながら少しずつ自分の世界を見つけていくお話です。木村いこ先生は外に出ることができなくなって、体重も増えてしまったので「夜さんぽ」をすることにしました。医学的にも適度な運動はとても大事です。引きこもりがちな「不安障害」において体力向上だけでなく、エンドルフィンやBDNFという脳内物質の産生をうながします。それにより症状の改善に役立つといわれています。
各話にそって症状と治療の意味についてごく簡単に書いてみました。できれば最初は知識なしで作品を読んでみてください。そして実はこういうステップが隠れているんですよ、ということがわかってからもう一度読んでみてください。きっとこの作品の隠れた良さに気づくと思います。
第1話 夜さんぽ
第一話はイントロです。経過の説明が簡単に描かれています。夜あるくと街灯のLED光に過敏な症状が出ています。これは神経過敏の症状の一つです。光過敏症状の他に音刺激や匂いがダメな方もいらっしゃいます。
あと夜に二人で歩くということも大切です。一人では「不安症状」が出てしまう場面でも信頼できる人がそばにいると症状が出づらいので一緒に歩いてもらっているんですね。曝露療法といって少しずつ段階を経て出来るようになっていく、という治療法です。
第2話 ペットボトル
理由がはっきりしない不安症状が襲ってきます。ペットボトルが置いてあるだけなのに漠然とした不安や敵意を感じてしまいます。先生をフォローする彼氏のトリさんがえらいです。
第6話 深黒の水
「不安障害」の方はアルコールやカフェイン、タバコなどに依存する場合があります。第6話にあるようにカフェインは過剰に摂取すると不安を増強させてしまう場合があります。ディカフェやカフェインレスというコーヒーも最近多く出てきていますので、上手に付き合うといいですね。
第11話 花火
最終第11話が花火の話です。静かな夜にしか散歩できなかったのに、いまでは夜に大勢の人がいても大丈夫。花火の音も平気になりました。やはり音刺激にも過敏になっていたのでしょう。第一話であれほどまぶしかった街灯のLEDの光も気にならなくなってきているみたいです。
「不安障害」の関連情報
本記事は「厚生労働省 みんなのメンタルヘルス」を基本に書いております。「不安障害」については色々な情報がありますが、きちんとした情報、専門の医師による診断が一番大事です。
「精神障害の診断と統計マニュアルDSM-5」でのV.不安症群・不安障害群、主に社交不安障害や全般性不安障害が該当すると思います。WHOの「ICD-10」ではF40-F48、神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害がそれに当たると思います。ネットでは“社会“不安障害と書かれているものもいっぱいありますが、2014年の日本語版DSM-5からは”社交“不安障害に変わっています。注意してください。
参考サイト:
厚生労働省 みんなのメンタルヘルス パニック障害・不安障害
http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_panic.html
『夜さんぽ』は発症から1年間のお話です。少しずつ以前の感覚を取り戻してきている木村いこ先生とそれをあたたかく見守る彼氏のトリさん。小さなことが少しずつ積み重なっていく夜のお話です。
作者は決して「不安障害」を強調したいわけではないと思います。でも「不安障害」を理解すると、もっともっと多くの人の心に届く作品だと思っています。現代の多くの人が感じる言いようのない不安。まだまだ広く知られていませんが「不安障害」は身近な病気です。気になった人はぜひ手に取ってみてください。素晴らしい作品でした。
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【電子限定特典ペーパー付き】いろいろ不運が続いて不安障害になってしまった、イラストレーターでマンガ家の【いこまん】。症状改善のため、無二の友でもある同居中の彼氏【トリさん】と「夜さんぽ」を始めてみた……。不安だからこそ出会える「夜」がある。不安だからこそ見つかる「夜」がある。そんな「夜」を探しに散歩する、どきどき、わくわく、しみじみ…と心に届く珠玉のエッセイコミック。
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— きんどう (@zoknd) July 21, 2017