こんにちは、きんどるどうでしょうです。新企画「きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してください(仮)」。1・2巻同時発売されたジャンプコミックス『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』のレビュー2軒めをいただきました。
毎日を無気力に過ごしていた青年が寿命30年を30万円で売り払い、残された余命3ヶ月で幸せになろうと躍起になるが尽く裏目にでてしまう。空回りし続ける彼が何かに気づいた時残りの寿命は……という感動作。
原作にはたくさんの高評価レビューがついてますので気になる方はあわせて是非 メディアワークス文庫 > 『三日間の幸福』
寿命を売る気はありませんか? あなたの寿命は一年いくら? 『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』
やあどうも、tonkotutarou(@tonkotu0621)と申します。普段は、労働を憎んだり、駅のホームから落ちないようにおびえたり、読みもしない本を買った自慢をするなどして、自分を大きく見せようと必死になったりしています。
「ああ、つまらない人間の、つまらない書評だろうな」思ったあなた、今回おすすめする漫画は、まさにそんな風に斜にかまえる人のための一冊かもしれません。
『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で』
半匿名のウェブ小説出身の三秋縋さんの『三日間の幸福』を、バンド「感傷ベクトル」のボーカルであり、漫画家である田口囁一さんがコミカライズした作品です。
じゃあ、実際にどんな話なのか
そんなわけで、実際にあらすじをご紹介していきたいのですが、原作者の三秋縋さんが140字でとても簡潔にまとめてしまっています。
夏なので、自著の紹介です。自分の人生には今後何一つ良いことがないと知らされ、絶望して寿命を売り払い余命三ヶ月となった男が、よりにもよって自分の死を看取る立場にある「監視員」の女の子と恋をしてしまうお話です。無性に死にたい夏にどうぞ。 pic.twitter.com/cb3LecYyln
— 三秋 縋 (@everb1ue) July 1, 2016
うーん。パーフェクト。小説の背表紙のあらすじや、Amazonの商品概要よりも遥かにわかりやすい。特に”無性に死にたい夏にどうぞ” この一文がすべてかもしれません。誰もが浮かれる夏に、死にたくなるような人間。そういうタイプの人間の同族嫌悪を誘うには、主人公の”クスノキ”はうってつけの存在だからです。
ダメな主人公と監視員
幼い頃から自意識だけを肥大させ、ろくに他人と交わろうともせず、そのくせ誰かの描いた小説や音楽を通じて他人を知ったつもりになっている。他人を信じないふりをして、都合よくその存在にすがってしまう。つい目をそらしたくなるくらい、”ダメ”な人間。それがクスノキです。
20歳の夏、大学生のクスノキは生活に困窮し、身の回りのものを売ってまわる中で、ある噂を耳にします。「この街に、寿命を買い取ってくれる店が存在する」
荒唐無稽な話に耳を疑いつつも、彼はその店に頼るハメになります。ダメ人間なので。何年か寿命を売ればなんとかなるのではないか。プライドの高いクスノキは自分の価値を高く見積もっていました。多くの自意識過剰な人間の例に漏れず。では、いったいいくらだったのか。それが「一年につき、一万円」というこの漫画のタイトルにもなった金額です。
今後どれだけ充実した人生をおくるはずだったか? そういう価値尺度において、彼の人生は「最低買取価格」だったわけですね。
結果、余命3か月だけを残して、30年を30万円で売ったクスノキですが、翌日から彼の生活はさらに大きな変化を見せ始めます。女性監視員の、”ミヤギ”の派遣です。ミヤギ、可愛いですね。
可愛いんですけど、ミヤギの役目はあくまでクスノキの監視。クスノキが自暴自棄になり問題行動を起こした場合、ミヤギが通報し即座に残りの寿命を奪うことになっています。こうして、残りの人生がわずかとなって初めて、彼は他人と共同生活をすることになります。
慣れない共同生活の中で、彼は人生の最後にやりたいことを書き出します。旧友と会う、美味しいものを食べる、遺書を書く……その残り僅かな人生でせめてもの幸せを手に入れようとするクスノキの姿、そして彼に淡々と「起こるはずだった現実」を伝えるミヤギ。
二人の悲しくって救いようがなくって、どこかほっとするような残りの3か月については、ぜひとも本書を手に取って楽しんでください。
さて、この漫画の最大の魅力は、三秋縋さんの原作が好きな方にも手放しでオススメできる非常に緻密なコミカライズである点です。以下、原作者・三秋 縋さんのツイートより。
以前一度直接お話しする機会があったのですが、田口さんは『三日間の幸福』の空気感をものすごく正確に理解していて、コミカライズにあたり「どうしたら『三日間』の雰囲気を損なわずに済むか」の部分を大変気にかけてくださっていました。原作者としてこれほどありがたいことはないです。ほんとうに。
— 三秋 縋 (@everb1ue) July 2, 2016
この『三日間の幸福』という作品は、もともとはウェブ小説でした。 三秋縋さんが「げんふうけい」という名義で発表していた小説を、テーマと主要キャラクターをそのままに文庫本として大きく改稿した作品です。
参考:『三日間の幸福』 http://fafoo.web.fc2.com/other/standbyme.html
文庫版は本当にたくさん加筆されています。僕はウェブ小説版のホールデン・コールフィールドめいた語り口に慣れていたので、ずいぶん驚いたものでした。でも、加筆された箇所のどれもが物語の奥行をより深く、立体的にするものばかりで、三秋さんの作品に対する愛が随所に伝わってくるものだったんですよね。
で、田口囁一さんのコミカライズは、そんな作者の愛や意図をくみ上げて、世界観を丁寧に絵に変換しています。世界観って俗な言い方なんですけど、こういうコミカライズの作業によって損なわれるものやくみ上げられるものって世界観としか言えませんよね。
例えばこの作品の随所にみられる「自動販売機」とか、蒸し暑さがページ越しに感じられるくらいの夏の描写とか。田舎の学生街を連想させる背景には、主要人物以外のキャラクターが取り除かれていて、「無性に死にたくなる夏」の真ん中で、寿命3か月になったクスノキの孤独感が伝わってきます。
小説の文章を追いかけていくなかで、おそらく登場人物はこんな表情をしたのだろう、こんな風にふるまったのであろうというシーンが、違和感なく絵になっています。
僕は読んでいて、ある種の聖地巡礼をしている気持ちになりました。
そういう楽しみ方もあるので、原作が未読の方ならば、ぜひとも『三日間の幸福』と併せて読んでいただきたいですね。コミカライズ版は現在2巻までが発売されています。試しに1巻、ついでに2巻と読んでしまうと、たぶん続きが気になって小説版をポチってしまうはず。
もうまもなく暑い暑い夏がはじまります。無性に死にたい夏に備えて、ぜひポチってみてはいかがでしょうか。
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寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。 1
毎日を無気力に過ごしていた青年クスノキは、ある日寿命を買い取ってくれる不思議な店の噂を耳にする。金に困って寿命の大半を売り払った彼は、余命3か月を「監視員」のミヤギと共に過ごすことになるが…。三秋縋の人気小説「三日間の幸福」を完全コミカライズ。
寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。 2
寿命の大半を売り払ったクスノキは、僅かな余生で幸せを掴もうと躍起になるも、悉くが裏目に出てしまう。そんな中、最後の支えである幼馴染みのヒメノと再会を果たすが…!? コミックスだけの新規描きおろしエピソード「存在の言うまでもない軽さ」を収録。
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