こんにちは、きんどるどうでしょうです。新企画「きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してください(仮)」。谷川史子のコミックエッセイ?というあとがきまとめ本『谷川史子 告白物語おおむね全部 30th anniversary』のレビューをいただきました。
谷川史子さんは現在も『はじめてのひと』を連載、最近では『おひとり様物語』『清々と』などの人気先もあるベテランマンガ家さんですね。その谷川作品の名物という『30年分の巻末おまけまんが「告白物語」』を1冊にまとめたというお祭り本が本作になります。
19歳のデビューからどんどん大人に、そしてベテランへと成長する姿はファンならずとも感じるところがあるのではないでしょうか。一読者としても楽しむもよし『わぁ、漫画のあとがきどうしよう……』というクリエイターさんには力強い参考書になる……かもしれませんね。
マンガ家エッセイとしても楽しめるこれは最高のファンブック
折鷹(@Oritaka365)です。初回のスーパーカブに続き、二回目の書評となります。
さて、書評というのもなかなか難しいものです。短い文章でできるだけたくさんの人に面白いと思ってもらわなきゃいけない。個人的に面白いと思っていても人によって好みや向き不向きがあるし、また本にも書評向けな本とそうでない本もあったりするわけです。今回はわりとそっち方面の本でした。つまり、読む人を選ぶ本。それが「谷川史子 告白物語(おおむね)全部」です。
表紙にデカデカと書かれた「30th」の文字でわかるように、かつてりぼんを中心に活躍され、現在も第一線で活躍中のマンガ家「谷川史子」先生のデビュー30周年を記念して発行されました。内容は今までの単行本の最後に掲載されていたあとがき的なエッセイ「告白物語」をまとめ、少しの加筆とゲストからもらったメッセージを掲載しています。まあ、いわば「マンガ家:谷川史子」のファンブックです。
こういった本は熱いファン以外は買わないと思いますが、熱いファンなら今までの単行本はほとんど読んでいるはずであり、意地悪な言い方をしてしまえば「重複買い」を求めている本とも言えるかもしれません。
ところが、これがなかなか面白いのです。
あとがきは好きですか?
日常のちょっとしたことをマンガ家が書くと、なぜこうも魅力的に見えるのでしょうか。
私はマンガ家のエッセイが好きです。よく白泉社コミックスにはページ左側に1/4スペースという空白があり、作品の背景やマンガ家の近況、小さなカットなどで埋められていました。私はそこを読むのが大好きで、マンガ家の生活や人物を垣間見た気になって喜んでいたものです。それがコミックスの最後にあとがきが書かれていたりすると大喜びで、本編の作品群より楽しめたりすることがあるほどです。
この本ではそういったあとがきが33冊分集めてあるわけで、それが作者の30年間の成長記録の側面もあるともなれば、マンガ家エッセイが好きな私が楽しめない筈はありません。
内容はざっくり4部に分かれており、デビューの1986年から2000年、2000~2006年、2006年~2017年の少女系、その他系と、時代によって活躍の場が変わっていく様子が描かれています。
Caption:谷川先生の初々しい様子(当時)
個人的に好きなのは、やはり第1部です。まだ19歳だった谷川先生が七転八倒しつつ、時には担当に恫喝されながら(時代ですね)、必死に作品を作っているのが赤裸々に描かれています。それが単行本2冊目3冊目(告白物語2話3話)となってくると日々の生活が主になっていき、定番の画材の話になったり怪談になったりと(まあそれも日々ではあるのですが)、内容も一環していない、良く言えばバラエティに富んだ内容となっております。
やがて単行本を重ねるにつれて内容がこなれていき、ちゃんとした「読み物」なっていくのが実感できます。まるで友人のアルバムを見ているかのようです。
また、合間に合間にカットや4コマで描かれる日常が良い。
Caption:マンガ家の魅惑的な日常
谷川先生はデビュー当時から空間を描くのが本当に上手く、カットなどの小作品ではその空間感覚が存分に活かされています。「乾燥機が壊れた」だけでくすっと笑わせられるカットを書ける作家はそうそういないでしょう。
そしてクライマックス。ザギン(銀座)の占い師の話。
Caption:凄腕の占い師ヤバイ
当時単行本で読んだのを懐かしく思い出しました。腹をかかえて笑いすぎて数分動けなくなったのです。この頃から酒ネタがどんどん増えていきます。先生が大人の女性に成長しているのです。
しかし泥酔して玄関で寝てしまうのはちょっと大人になりすぎている気もします。まあそういう自分をネタとしてさらけ出してしまうのがエッセイの面白い所でしょう。相方扱い(仲良し)の長谷川潤先生、お疲れさまですとしか言えません……。
Caption:こんなお遊びもあとがきならでは
マンガ家の華麗(?)なる生活
第二部の2000~2006年になると、りぼんからちょっと大人向けの雑誌「Cookie」へ活躍の場を徐々に移していきます。マンガ家としては新しい物に挑戦し始めた時期で、エッセイでも雰囲気が変わっていくのが見て取れます。
作品の打ち合わせ話は定番ですが、生活で女子高生に親切を受けた話、脳ドックの話、泥棒に入られるのを心配する話など、何を題材にしても面白く描けるというのは、まさに油が乗りきったマンガ家という印象が強く出ています。
中でも、幾夜にも渡る徹夜の末に幻覚を見てアシさんにドン引きされる話などは、原稿が遅いといわれる谷川先生の見たくない日常が見られてタイヘンオモシロカッタデス。(後日談あり)
Caption:あるあ……ねーよ
そして第3、4部の2006年~2017年。活躍の場は大人向けの「コーラス」を始めとして、「ココハナ」や「Young King アワーズ(少年向け)」など、さまざまな雑誌に向けて作品を発表していきます。もちろんエッセイも、ただ単にマンションから閉め出された話、服で突き指した話、うどんの話、ライブに間に合わなかった話など、もう何を描かせても大丈夫という安心感。その中で垣間見られる、「ちいさな出来事こそが読者の心を動かす」という感覚。これを身体で知っているからこそ、「おせんべいがおいしい」を楽しく面白く見せることができるのでしょう。
Caption:この凶悪なまでの可愛さよ…
見えないものを描く人、描いてない絵が見える人
最初に書きましたが、この本は読む人を選びます。このエッセイは既に谷川史子の世界を楽しんだ感覚を持って読むのが、最も楽しめる内容だからです。そういう意味でのファンブックですので、谷川作品を何作か読んでいる人ならかなり楽しめるのではないかと思います。もちろん、私のようなマンガエッセイ好きや、ましてや谷川先生のファンなら掛け値無しでおすすめでしょう。
告白物語初回の、誰も居ない座布団の絵。これに谷川先生が三つ指ついているのが見える人、それがこの本を楽しめる人の証明となるのかもしれません。
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谷川史子 告白物語おおむね全部 30th anniversary
『こりゃひどい』(谷川史子・談) 谷川本名物!? 30年分の巻末おまけまんが「告白物語」が、1冊の本になりました。 描きおろしや単行本初収録作品も盛りだくさん! 単行本特典ペーパー、レアな1ページエッセイなどもおおむね全部のってます!
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— きんどう (@zoknd) July 3, 2017