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京極夏彦『書楼弔堂』 一作目が驚異的に面白いが、実は二作目がもっと面白い。

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こんにちは、リアル書店員のケス・ノングです。

わが書店業界、日に日に厳しくなっております。紙の本は通販サイトから買い、さらには電子書籍は自宅や通勤中にダウンロードしてその場で読むという人が増えてしまい、「店まで出向いて本を買う」という行為自体のハードルが高くなってきています。

かくいうケス・ノングももっぱらKindle愛用なのですが(笑)、そこはそれ、仕事としては、お客様に本屋に来ていただかなくては話になりません。

そもそもこの「本屋にいけばいろいろな本がある」という形態は最近のもので、明治時代などでは、一部の知識階級が洋書を何とか取り寄せたりする程度だったようです。さて、今回紹介するのは、そんな明治時代、誰にでも見えるが、誰にも見えない。誰にでも行けるが、誰にも行けない、そんな時と空間のはざまにふと現れる不思議な本屋、弔堂(とむらいどう)のお話です。

京極夏彦『書楼弔堂』

文庫版 書楼弔堂 破曉

京極夏彦 (著)
価格:864円 10%ポイント還元
★★★★* 4件のレビュー

明治二十年代の半ば。雑木林と荒れ地ばかりの東京の外れで日々無為に過ごしていた高遠は、異様な書舗と巡りあう。本は墓のようなものだという主人が営む店の名は、書楼弔堂。古今東西の書物が集められたその店を、最後の浮世絵師月岡芳年や書生時代の泉鏡花など、迷える者たちが己のための一冊を求め〈探書〉に訪れる。変わりゆく時代の相克の中で本と人の繋がりを編み直す新シリーズ、第一弾!

書楼弔堂 炎昼

京極夏彦 (著)
価格:2,052円 10%ポイント還元
★★★★☆ 1件のレビュー

語は呪文。文は呪符。書物は呪具。足りぬ部分を埋めるのは、貴方様でございます――。時は明治三十年代初頭。気鬱を晴らそうと人気のない道を歩きながら考えを巡らせていた塔子は、道中、松岡と田山と名乗る二人の男と出会う。彼らは、ある幻の書店を探していた――(……)彼らは手に取った本の中に何を見出すのか? 移ろいゆく時代を生きる人々の姿、文化模様を浮かび上がらせる、シリーズ待望の第二弾!

――明治の知識人の間で、うわさが流れている。

「古今東西どんな書籍でもあり、しかも買うことができる」という夢のような、幻のような書舗(ほんや)があるという。

明治時代に活躍したあまたの文学者や学者、政治家が詣で、陸燈台のようなその建物の中にぎっしりと並べられた本に驚嘆し、主人のとの幻想的な会話に魅入られ、彼らはひと時幽玄の世界へと迷い込む。蒙を啓くのは弔堂主人の一言。

――「で、○○様は、どのような本をご所望ですか」

弔堂主人はその人のための一冊を選び、売る。それは、その客の思想を変え、人生を変える一冊。

どうです。素敵でしょう。

連作短編形式になっており、毎回いろんな人物が登場します。泉鏡花、井上圓了、田山花袋、勝海舟、平塚らいてう…。彼らは弔堂での、主人との会話と選ばれた本により、己のゆく道を進んでゆきます。

特に二巻目「書楼弔堂 炎昼」に通して登場する「松岡」が素晴らしい。彼がどのような人物になっていくのかは読んでのお楽しみです。

京極作品のシリーズはいくつかありますが、有名なところでは「京極堂シリーズ」「巷説百物語シリーズ」でしょう。前者が昭和20年代、後者が江戸末期を舞台にしており、今回のこの「弔堂シリーズ」は時代的にもその真ん中。京極堂シリーズの幻想味と、巷説シリーズの外連味がうまく融合して、内容的にも両者の真ん中な感じです。

ちなみに、一巻目「書楼弔堂 破暁」の最後の話に登場するのは、なんとなんとあの…! 詳しくは言えませんが、京極作品の世界観の壮大なる融合が味わえます。

これら三つのシリーズに共通するのは、とにかく主人公の魅力的な騙り(かたり)です。作中の人物の話しかけているはずなのに、読者が幻惑されてしまうその酩酊感がたまりません。おっと、もう一つこれらのシリーズの共通項を発見しました。

一作目が驚異的に面白いが、実は二作目がもっと面白い

です。「姑獲鳥の夏」は最高だったが、「魍魎の匣」にはそれを上回る驚愕があったし、「巷説百物語」は京極版必殺仕事人としての痛快な面白さが最高だったが、「続巷説百物語」ではあまりに壮大な世界観でクライマックスに震えが来ました。

今回二作目「炎昼」が出るにあたり、一作目「破暁」が文庫化されました。紙で買うと、大きさが不ぞろいで気持ち悪いですが、Kindle版だとそれも気になりませんね(笑)

なお、一冊分ごとにまとめている版と、各話バラ売り版とがあります。せっかくなのでまとまってるほうをお勧めします。どうせ次が読みたくなりますから。間違いなく面白いです。ぜひ読んでみてください。

いかがでしたか? 今回はセールや、テーマを決めたフェアとは関係なく、純粋に面白かった本を紹介してみました。今後も合間合間にこうしたおすすめ本を紹介できたらと思います。Kindle買うのもいいけど、書店にも来てくださいね!

この記事を書いた人:ケス・ノング

某チェーン書店で文芸書・文庫を担当。自分は人に薦めるくせに、人に薦められると読みたくなくなる天邪鬼。昔は年間300冊は読んでいたが、年々集中力が衰え今は年間80冊くらい。

Amazonプライムのおかげで映画やドラマも見てしまうので全然時間が足りなくて一週間が四週間くらいあればいいのに、とかバカなことばかり考えているからよけい本が読めないという悪循環に陥りがちな中年真っ盛りです。


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