みなさん、こんにちは。日ごろから小社の電子書籍をお読みいただき、ありがとうございます。文藝春秋電子書籍、中の人のひとり「火金」です。火曜と金曜にTwitter(@bun_den)でつぶやいています。
今回は2月10日に電子書籍オリジナルで発売された池上冬樹『週刊文春ミステリーレビュー2011-2016 海外編 名作を探せ!』を紹介させていただきます。同時に[国内編]も発売されており、そちらもこのサイトで紹介させていただいていますので、ぜひお読みください。
このコンテンツは週刊文春で20年以上も連載されているコラム「ミステリーレビュー」をまとめたものです。誌面では国内と海外のおすすめミステリーを交互に紹介していますが、このコンテンツでは海外ミステリー6年分のレビューをまとめました。280冊ちかい必読ミステリーが紹介されています。それに加えて年末恒例の「文春ミステリー」上位20を6年分掲載しました。
[海外編]はそれだけではありません。作家の堂場瞬一さんと、2001年から2010年の海外ミステリーを振りかえった対談「異色のヒーロー像から世界文学まで」も収録。つまり、この電子書籍を読めば、21世紀の海外ミステリーの名作がわかってしまうのです。[国内編]と同様に、レビューで触れた作品には、巻末の索引で電子書籍の有無を明記しています。
筆者の池上さんは、まえがきでこう書いています。
誤解してほしくないのは、採点はあくまでも補助的なものであることで、大切なのは、書評のそのものである。評者の気持ちは(こんなことをいうのもなんだが)、採点よりも、文章の温度にいちばんあらわれていると思う。冒頭で北上次郎さんの話をもちだしたのは、書評で重要なのは文章の高まりや熱さということ。採点がよくても、文章に熱気がなければ、読者はもうひとつ読んでみたい気持ちにかられないのである。ぜひその辺の文章の温度にも注目して読んでいただければと思う
制作している私が言うと、セールストークに聞こえるかもしれませんが、実際、文章からは熱が伝わってきて、作品そのものを読んでいなくても面白いのです。それをみなさんにも感じていただきたいので、過去6年間に「文春ミステリー」でベスト10入りし、いま電子書籍で読める作品が、どのようにレビューされているか実際にご紹介します。
筆者の熱を感じたら、このコンテンツはきっとミステリー選びのお役にたちます。多くの人の投票で選ばれたベスト10には入らなくても、筆者が大絶賛しているミステリーはたくさんあります。ぜひ、みなさんの名作を探してみてください。
ここでCMです! 2月10日『週刊文春ミステリーレビュー』海外編
週刊文春ミステリーレビュー2011-2016 海外編 名作を探せ!
20年以上も続く週刊文春「ミステリーレビュー」。この名物連載の2011年から2016年までの6年分、140本のコラムをまとめました。海外編の筆者はミステリー評論や書評の世界で、その評価が高く信頼されている池上冬樹氏(……)見逃していた名作、傑作を知ることができます。 連載記事に加えて、2011~2016年の「週刊文春ミステリーベスト10」の1位から20位までのランキング、各年のミステリー界まとめ記事も収録。
2011年 文春ミステリー 第1位
二流小説家
映画化決定! 上川隆也主演「二流小説家―シリアリスト―」 全国東映系で6月公開! 残忍な手口で四人の女性を殺害したとして死刑判決を受け獄中にある男から、しがない小説家に手紙が届く(……)刑務所に面会に赴いた小説家は、思いもかけぬ条件を突きつけられた……史上初! 年末ミステリ・ベストテンで三冠達成の傑作が電子書籍化。
小説としての厚みがあり、なおかつ愉しくて仕方がないのが、デイヴィッド・ゴードンの『二流小説家』(ハヤカワ・ミステリ)だ。ミステリ、SF、吸血鬼もののシリーズで食いつないでいる中年作家ハリーの所に、死刑間近の連続殺人鬼から告白本の執筆依頼が舞い込む。その内容とは? 新たな連続殺人事件にまきこまれ、ハリーは犯人を追う。
依頼の内容もおかしいし、ハリーの迷いぶりもおかしいし、次々と挿入されるハリーの通俗ジャンル小説もおかしい。一方で、古今東西の文学を絡めた小説論、犯罪論、人生論はまともで、人物たちは殺人鬼を含めて実に博学で刺激的で時に知的淫乱で、困ってしまうくらい魅力的だ。
バカ・ミステリとメタフィクションと芸術家小説と暗黒小説が一体化した批評ミステリの秀作。ミステリ&文学ファンは必読だろう。採点は★★★★1/2。(2011年3月31日号掲載)
2012年 文春ミステリー 第1位
解錠師
けっして動かないよう考え抜かれた金属の部品の数々。でも、力加減さえ間違えなければ、すべてが正しい位置に並んだ瞬間に、ドアは開く。そのとき、ついにその錠が開いたとき、どんな気分か想像できるかい?(……)プロの金庫破りの弟子となり芸術的な腕前を持つ解錠師になるが……MWA、CWAの両賞の他、バリー賞最優秀長篇賞、全米図書館協会アレックス賞をも受賞した話題作
スティーヴ・ハミルトンの『解錠師』(ハヤカワ・ミステリ)は、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞と英国推理作家協会賞スティール・ダガー賞を受賞した話題作。刑務所で服役している青年マイクルの回想録だ。幼くして体験した悲惨な事件で言葉を失ったが、絵を描くこととどんな錠も開くことができる才能に恵まれた。青年は少年時代の日々と解錠師になってからの犯罪の日々を交互に語っていく。
囚人の回想録ともなればカタルシスのない暗澹たる話に思えるだろう。口のきけない主人公の話ともなれば動きの少ない退屈な話と思うかもしれない。だが違うのだ。少年の感受性は繊細で青春小説として瑞々しく、金庫破りの日々は波瀾に富み、賑々しく個性的な犯罪小説になっている。
マイクルは、金庫は女性であり、解錠は女性の心の謎を解くことだと師に教えられるが、それはそのまま物語のテーマへと繋がる。その比喩が具体的な形としてラストにあらわれ、読者は思わず胸が熱くなってしまう。周到な語り、スリリングな展開、そして温かな結末。米英二冠を制したのも納得の忘れがたい秀作。
採点は必読の★★★★1/2。 (2012年1月26日号掲載)
2013年 文春ミステリー 第1位
11/22/63(上)
このミス1位ほかミステリー3冠達成の感動大作 過去へ旅することのできる「扉」の存在を知った男はケネディ暗殺阻止に挑む。キングにしか書けない壮大な物語。落涙保証の感動大作!
スティーヴン・キングの『11/22/63(イチイチ/ニイニイ/ロクサン)』(文藝春秋)は、高校教師が1958年に通じるタイムトンネルに出入りし、1963年11月22日のケネディ大統領暗殺を阻止しようとする物語だ。
時間旅行と歴史改変がテーマで、58年から63年の米国の社会と風俗がたっぷり捉えられてあるし、歴史改変がどのような歪みを与えるのかも実に皮肉な形でまざまざと見せつけている。キングなので冗漫なところもあるが、それでも約2500枚はさほど長さを感じさせない(はりめぐらされた伏線と回収が見事)。
オズワルドの周辺を丹念に洗い、単独犯なのかどうかも含めた〝真相〟も読ませるが、読者を深く魅了するのは、高校教師と司書との恋愛とその顛末である。キングがこれほど優しく、切なく、悲しく、叙情たっぷりに恋愛を描いたことがあっただろうか。何と静かで、エモーショナルな結末だろう。おもわず目頭が熱くなるではないか。
キングの新たな傑作であり、タイムトラベルと歴史改変小説の名作に数えられるだろう。
採点は必読の★★★★1/2。(2013年10月10日号掲載)
2014年 文春ミステリー 第1位
その女アレックス
おまえが死ぬのを見たい―男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが…しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し、最後に待ち受ける慟哭と驚愕へと突進するのだ。イギリス推理作家協会賞受賞作。
緊迫感といったらピエール・ルメートルの『その女アレックス』(文藝春秋)も凄い。女性が誘拐された事件を警察が追及していく話だが、ひねりと迫力たるやかなりのもの。何よりも物語の変貌ぶりが見事。女性の失踪事件から始まった物語はどんどん変な方向へと進み、人物の役割は逆転し、予想外の犯罪の歴史が語られて唖然となる。特に密室劇として沸騰していく第三部が抜群。やおら登場する悪党と目される人間がふてぶてしく、刑事たちとの対決は緊張感に溢れ、攻防から目が離せなくなる。
フランスではゴンクール賞を受賞している作家だが、未読の作品を全部読みたくなるほどプロットは練られ、キャラクターは奥行きがあり(小柄、巨漢、富裕、倹約家など個性的な刑事たちの肖像がいい)、私生活の問題(妻を亡くした事件の後遺症と画家だった母親への思い)が事件の合間に語られ、テーマと深く絡まって味わいが深い。
英国推理作家協会賞インターナショナル・ダガー賞受賞も納得の傑作。今年の大いなる収穫だ。採点は必読の★★★★1/2。(2014年9月18日号掲載)
2016年 文春ミステリー 第4位
ザ・カルテル 上
麻薬王アダン・バレーラが脱獄した。30年にわたる血と暴力の果てにもぎとった静寂も束の間、身を潜めるDEA捜査官アート・ケラーの首には法外な賞金が賭けられた。玉座に返り咲いた麻薬王は、血なまぐさい抗争を続けるカルテルをまとめあげるべく動きはじめる。一方、アメリカもバレーラを徹底撲滅すべく精鋭部隊を送り込み、壮絶な闘いの幕が上がる―数奇な運命に導かれた2人の宿命の対決、再び。『犬の力』、待望の続篇。
長いといえば、ドン・ウィンズロウの『ザ・カルテル』(KADOKAWA)。上下巻で約1200頁、原稿用紙にして2000枚! メキシコでの麻薬戦争を30年間のスパンで描ききった『犬の力』の続篇で、麻薬王バレーラと麻薬取締局捜査官ケラーの宿命の対決が圧倒的な筆力で捉えられている。
前作後の2004四年から12年までの8年間の戦争の行方を追求したものだが、善も悪もない混沌とした世界での興亡著しく、狂気と暴力に溢れた地獄絵図が延々と語られていく。世界金融危機の後、莫大な麻薬マネーが世界の不動産市場と株式市場と新興企業を支え、麻薬戦争そのものが武器産業ほか大金を生み出している現実を見すえて、犯罪組織同士の戦いに、罪にまみれた英雄譚を絡めている。
凝縮された壮大な叙事詩であり、犯罪大河小説の金字塔だろう。前半がやや鈍重なので採点は★★★★1/2だが、『犬の力』とあわせれば、堂々たる★★★★★満点の大傑作。(2016年6月16日号掲載)
2015年 文春ミステリー 第4位
声 エーレンデュル捜査官シリーズ
クリスマスシーズンで賑わうホテルの地下室で、一人の男が殺された。ホテルのドアマンだという地味で孤独な男は、サンタクロースの扮装のままめった刺しにされていた。捜査官エーレンデュルは捜査を進めるうちに、被害者の驚愕の過去を知る(……)スウェーデン推理作家アカデミー最優秀翻訳ミステリ賞、フランス推理小説大賞翻訳作品部門、813賞最優秀翻訳長編部門受賞。『湿地』『緑衣の女』に続くシリーズ第3弾。
アイスランドを舞台にしたアーナルデュル・インドリダソンの『声』(東京創元社)は、『湿地』『緑衣の女』に続く犯罪捜査官エーレンデュル・シリーズの第三弾。ホテルの地下室で殺されたドアマンの過去があぶりだされる物語だ。
ドアマンの肖像とともに、エーレンデュルの過去(弟を失くした事件)が語られ、親子関係が様々に重ねられて、物語の奥行きが深まっていく。事件の構図は新しくないが、読み応えがあり、感銘を受けるのは、作者が人生の苦悩に寄り添っているからだろう。
聖書にあるように〝あなたがたの罪が真っ赤でも、真っ白になりうる〟のか、だとしたら〝真っ白な罪〟とは何なのかを考えさせる。その罪に終始苛立ち、父親に暴言をはき、のたうちまわっている娘エヴァが愛おしいし、娘を許し理解しようとする父エーレンデュルの姿が切ない。採点は★★★★1/2。(2015年8月27日号掲載)
2月10日 国内編/海外編 が電子書籍限定配信されます
週刊文春ミステリーレビュー2011-2016 国内編 名作を探せ!
20年以上も続く週刊文春「ミステリーレビュー」。この名物連載の2011年から2016年までの6年分、140本のコラムをまとめました。国内編の筆者は、ミステリーの世界でが高く信頼されている気鋭のミステリー評論家、千街晶之氏(……)ミステリーに興味のある読者はもちろん、「なにか面白い本はないかな」と、いつも迷う方には最適。熱のこもったコラム集を見ながら、あなたの五つ星ミステリーを探してみてください!
週刊文春ミステリーレビュー2011-2016 海外編 名作を探せ!
20年以上も続く週刊文春「ミステリーレビュー」。この名物連載の2011年から2016年までの6年分、140本のコラムをまとめました。海外編の筆者はミステリー評論や書評の世界で、その評価が高く信頼されている池上冬樹氏(……)見逃していた名作、傑作を知ることができます。 連載記事に加えて、2011~2016年の「週刊文春ミステリーベスト10」の1位から20位までのランキング、各年のミステリー界まとめ記事も収録。
この記事を書いた人:文藝春秋 電子書籍編集部
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— 文藝春秋 電子書籍編集部 (@bun_den) January 28, 2017