こんにちは、ケス・ノングです。直木賞も芥川賞も未読。文芸書担当書店員としてこれでいいのかと思いますが、「人には薦めるが人に薦められるのはイヤ」という開き直りの境地に達しつつあるので、ブーイングも振り切って新企画を考えました。
題して、「このミステリーは(別の意味で)すごい!!」
名作・傑作と呼ばれるミステリーはたくさんあります。それらはあまたの作品との闘いをくぐり抜け、堂々と歴史に残ったのです。
だが、そんな歴史の陰に埋もれたミステリーの一群があります。「え、このトリック…ありえなくね?」「こんなことにちまちま努力する犯人おるかい!」「こんだけ費やして言いたかったのはそれかい!」と思わず本を壁に投げつけたくなるような本(Kindleでやってはいけません)。
いや、でも…待てよ。なぜか心に残る。ちくしょう、なんか別の意味ですごいぞこれ…と身もだえしてしまうような奇妙な愛すべき作品たち。そんなミステリーを徒然なるままに紹介していきます。よろしければお付き合いください。
※あくまでケス・ノングの個人的な感想です。紹介する本は「つまらない本」ではなく、いろんな意味で一部分の振れ幅が大きすぎる本であり、そのめちゃくちゃぶりを愛を持って紹介します。また、既に名作扱いされているものや、メジャーな作品も紹介していきます。それらはある意味、その「別の意味ですごい」ことを武器に名作にのし上がったものであり、それはとても素晴らしいことです。
それでは一発目は、そうですね、やはりこの方でしょう。
このミステリーは(別の意味で)すごい!!
新装版 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件
首なし死体、密室、蘇る、死者、見立て殺人……。京都近郊に経つヨーロッパ中世の古城を彷彿させるゴチック調の館・蒼鴉城を「私」が訪れたとき、惨劇の幕はすでに切って落とされていた。事件の最中、満を持して登場するメルカトル鮎。そして迎える壮絶な結末! ミステリー界を騒然とさせた衝撃のデビュー作を新装版にて。
まず探偵の名前がすごい。「メルカトル鮎」。どこの国の人やねん。そしてこれがシリーズ一作目なのですが、ここはネタバレして問題ないです、ええ、この人死にます。一作目にして。だから「最後の事件」。もう何から何まで破格です。殺人事件を捜査中の名探偵(正確には「銘」探偵ですが説明は割愛!)が死んだ! と思いきや別の探偵が出てきてすったもんだしたら、ラストがさらに衝撃。えええーーーと叫んでしまうこと間違い無しです。首無し死体のトリックもすごすぎて常人にはついていけません。
京大ミステリ研究会で綾辻行人・我孫子武丸・法月綸太郎らの後輩であり、本作は21歳でのデビュー作。若さ故のめちゃくちゃかと思いきや、その後もずっとめちゃくちゃなので別の意味で安定感のある人です(笑)。
神様ゲーム
自分を「神様」と名乗り、猫殺し事件の犯人を告げる謎の転校生の正体とは? 神降市に勃発した連続猫殺し事件。芳雄憧れの同級生ミチルの愛猫も殺された。町が騒然とするなか謎の転校生・鈴木太郎が事件の犯人を瞬時に言い当てる。鈴木は自称「神様」で、世の中のことは全てお見通しだというのだ。そして、鈴木の予言通り起こる殺人事件。芳雄は転校生を信じるべきか、疑うべきか?
もう一冊麻耶雄嵩から。この本は当初「ミステリーランド」という叢書から刊行されました。これは「かつて子どもだったあなたと少年少女のための――」というコピーが示すように、大人も読めるけど、原則少年少女向きのレーベルです。
……というレーベルだと知ってこんな話を書くか!!! もうね、子どもがこれ読んだら一生トラウマになりますよ。小一に原作版「デビルマン」読ませるようなものです(笑)。
自分を「神様」と名乗る小学生。彼の予言通りに事件は進む。本当に彼は神様なのか? そしてこれもそうです。衝撃的すぎるラスト。さらっとこういう事書いちゃう感性がすごすぎます。ミステリにおける「全知全能の探偵」とは何なのか、という命題に常に挑み続ける「極左本格」とでも言うべき作家と思います。
貴族探偵
信州の山荘で、鍵の掛かった密室状態の部屋から会社社長の遺体が発見された。自殺か、他殺か? 捜査に乗り出した警察の前に、突如あらわれた男がいた。その名も「貴族探偵」。警察上部への強力なコネと、執事やメイドら使用人を駆使して、数々の難事件を解決してゆく。斬新かつ精緻なトリックと強烈なキャラクターが融合した、かつてないディテクティブ・ミステリ、ここに誕生! 傑作5編を収録。
ええい、もう一丁。今回は麻耶雄嵩特集に今決めました。タイトル見ると、「ああ、ちょっとキザな貴族、もしくは貴族風の男が高飛車に推理して事件を解決するんだろう」と思うでしょう。惜しい。主人公は「高飛車な貴族」ではありますが、推理なんかしません。
「なんで私のような高貴な者が推理なんて煩わしいことをしなくてはならないのだ?」と、調査だけでなく、推理すら下々の者にさせます(笑)。何でそれが名探偵なんだよ! と言うツッコミ、正しいです。はい。でも、麻耶作品に「正しさ」など何の効力も無いのです。メルカトル鮎もそうですが、「探偵が指摘することによって真実は確定する」のが麻耶世界なのです。はい、もうあなたはこの世界から抜けられませんよ…(笑)。
おわりに
という訳で、新企画「このミステリーは(別の意味で)すごい!!」はいかがでしたでしょうか。出来れば第二弾、第三弾と紹介していきたいので、反響があると嬉しいです。紹介したい本はまだまだあります。
合間合間にセールになっている本や、読んで面白かった本の紹介などもしていきたいと思います。まだまだ寒い日が続きます。皆様、風邪やインフルエンザにお気をつけて…。
この記事を書いた人:ケス・ノング
某チェーン書店で文芸書・文庫を担当。自分は人に薦めるくせに、人に薦められると読みたくなくなる天邪鬼。昔は年間300冊は読んでいたが、年々集中力が衰え今は年間80冊くらい。
Amazonプライムのおかげで映画やドラマも見てしまうので全然時間が足りなくて一週間が四週間くらいあればいいのに、とかバカなことばかり考えているからよけい本が読めないという悪循環に陥りがちな中年真っ盛りです。
この企画について:匿名書店員さんによるキュレーションをやろう
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